先日群馬県の桐生でネタ下ろしをしたわたしの岡本綺堂原作「利根の渡」をお聴きになられた方からご質問を受けましたのでお答えいたします。
まずはこの作品の粗筋(あらすじ)から。 『奥州某藩で百八十石取りの野村彦右衛門に仕える若党の治平は、彦右衛門の新造徳との不義を疑われ、彦右衛門に両目をつぶされてしまって以来丸九年座頭となって揉み療治の生業(なりわい)を続けてまいりましたが、片時も彦右衛門に受けた怨みを忘れることはなく、とうとう古河の利根の渡で彦右衛門を待ち受け、手作りの太い針で彦右衛門の両目を突き刺し復讐を遂げようといたします。 が、五年経ちましても渡場で彦右衛門に出くわすことはなく、敵討ちの願い叶わずに座頭の治平は亡くなってしまいます。 しかしそれから六年後彦右衛門が見舞われました災難は……』 この小説「利根の渡」はネットの青空文庫で読めますので、ぜひお読みになられて、その上でわたしの講談「利根の渡」をお聴きになられてみてください。楽しさが倍増すると思います。 (問)あなたの講談では新造の悪ふざけにより不義の疑いをかけられた治平が、主人の彦右衛門に両目を小柄で突かれてしまいますが、原作では治平のほうが積極的に新造にちょっかいを出していますね。この違いは……? (答)治平が新造にちょっかいを出したという原作のままですと、彦右衛門に両目をつぶされたのは当然の報いで、それを治平が怨むのは逆恨みとなってしまい、治平の復讐にお客さんが共感をもたなくなってしまいます。 そこでわたしの脚色のように治平を不義の濡れ衣を着せられた一方的な被害者に仕立てませんと、後味の悪さだけが残り、怪談噺として成立しなくなってしまうのです。 この辺の微調整が小説と生身のお客さんを相手にする講談の違いとなります。 (問)座頭になった治平が彦右衛門の両目を突き刺すために使う針の長さが原作でも講談でもはっきりしないのですが……。 私は通常の療治に使うものよりも長く20センチほどは必要だと思うのですが……。 (答)針の長さは聴き手のイメージで何センチでも構いませんし、詳細に描写する必要もありません。あなたが20センチと思うならば20センチでよろしいのです。 わたしは目に突き刺す針というただそれだけの漠然としたイメージで、具体的な針の長さの数値などは想定していません。 (問)結末を変えられましたね。 (答)原作の終わり方ですと講談の切れ場になりませんし、このほうが怖くなると判断して、文章でいえば60字ほど最後に付け足しました。 この名作の格調とテーマをくずすことなく、成功したと思っています。 ……次の「利根の渡」の口演は以下の会となります。 神田愛山独演会番外編『神田愛山とアマ弟子(露地野一門)の会』 10/2(日)13:30 らくごカフェ(神保町駅A6・神保町交差点古書センタービル5F…ビル裏口エレベーターより・降りて左・千代田区神田神保町2ー3) 2000円(ブログプリント持参割引あり) 一部アマ弟子発表会 「ご挨拶」神田愛山 「山内一豊の妻」露地野なでし子(吹抜雅子) 「(荒井到作)生真面目な男」露地野ぼん子(神門久子) (仲入り) 二部神田愛山独演会 「(露地野裏人作)ご近所大戦」「(岡本綺堂原作)利根の渡」神田愛山
by aizan49222
| 2016-09-29 11:51
| 愛山メッセージ
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