冬の朝新作台本詰まりたるパソコン抱え陽司逝きたり
貧乏を笑い身なりに気をかけず喋り足りずに陽司逝きたり
難病に冒され五年力尽き永久(とわ)の眠りに君はつつまる
あまりにも五十三才若すぎて陽司の無念天をつらぬく
杖つきて着物乱れて楽屋入る死相浮かべり君が姿や
電話にて復帰を誓う君が声たどたどしくも命燃えたり
君宛てにメールを送り尋ねたし「おまえは本当に死んだのか」
生前の陽司メールを保護設定春の嵐の予報いずる日
少理屈(こりくつ)の坊やのごとき君なりき羞にかむ顔よ邪気なき顔よ
高座前台本片手にネタさらう君が姿が涙に消えぬ
幽霊となりて高座に現れろ天国の様子語り聞かせよ
天国に龍馬はいたか話したか師の鞄を持てよ忘れるな
寄席があり断腸の思い不会葬俺を怨みて化けて出てくれ