高校を出るまで、わたしは父親の会社の社宅に住んでおりましたが、冷暖房器具はコタツと扇風機だけでした。
扇風機は首振り機能だけで、タイマーはついてはおりません。
おまけに両親の部屋に1台しかありませんから、とても子供部屋まで、扇風機の風は届きません。
そこでわたしは夏の夜になりますと、いつも濡らしたタオルと団扇を枕元に置いて寝ていました。
「大人になったら、扇風機をつけっぱなしで寝るんだ」
と、毎日のように夢見ていたものです。
しかし大学に進学して川崎で一人暮らしを始めたときも、親は冷暖房器具を買ってくれませんでしたし、講釈師になってからも無縁の品でした。
ただでさえすくない収入はすべて飲みしろにまわし、コタツや扇風機を買う余裕は、とてもなかったのです。
ですからわたしにとってコタツや扇風機は贅沢品なのです。
今はおかげさまでタイマー付扇風機をフル回転させていますが、エアコンを買ったことがありません。
コタツや扇風機を贅沢品と思っている人間にとり、エアコンなどは王侯貴族の持ち物なのです。
……このアパートの部屋の前の住人がエアコンを残していってくれましたが、やはり分不相応との思いが強く、とても使えません。
使っていると料金が気になって冷や汗が流れてくるのです……。
ですから来客があるとき以外には、エアコンは滅多に使用していません。
わたしはすでに贅沢品の扇風機を使いまくっているのです。
これ以上の贅沢は罰が当たります。