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清水の頃・小学時代(四)


  火傷負ひ学童のまゝに逝きし友昨日の如き歳月流る


 清水の小学校に転校してから、すぐに親しくなったのがH君でした。彼はとても明るいヤンチャな子供で、わたしとはまるで性格が違います。親しくなったきっかけは覚えていませんが、おそらくは人見知りをしないH君のほうから、わたしに接近してきてくれたのでしょう。家が近かったということもあるのかもしれません。粘土山と呼ばれた小高い山で一緒に遊んだ記憶があります。

 ……そしてその日、授業が終わって、掃除の時間となり、わたしはH君と並んで雑巾がけをしておりましたが、彼がいつもと変わらぬふざけた口調で「もう拭いてもいいかちら」といったのが、H君と会話をかわした最後となりました。

 H君はその晩、家のお風呂の縁に乗って(いかにもヤンチャだった彼らしいエピソードです)湯加減をみていましたが、誤って落下。全身火傷で亡くなりました。
 担任の男の先生が事故の模様や、入院治療の様子を、そのつど克明に知らせてくれましたが、H君はそのまま帰らぬ人となってしまいました。
 いかにも辛そうに「やはりH君は亡くなってしまったよ」と報告してくれた先生の顔を、わたしは今でもはっきりと思い浮かべることができます。

 クラスメートが揃って、H君のお通夜に出かけました。薄ら寒い一日でした(季節を覚えておりませんので、あるいはわたしの心がそう感じてしまったのかもしれません)。
 H君の菩提寺は、子供たちの遊び場でもありましたから、わたしは彼が眠るお墓を承知しています。
 しかしわたしはその後一度も、その前にたたずんだことはありません。素通りするだけで、目も向けません。
 H君の無念さを思うと、彼が大火傷を負った当日に話をした自分だけが生きていることに対して申し訳なさを感じてしまうからです。

 そしてその気持ちは今でも変わっていません……。
by aizan49222 | 2010-05-26 23:54 | 愛山自伝・俳句と短歌


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